楽園

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24 アブドゥルラザク・グルナ 白水社

2021年ノーベル文学賞受賞作。作者はザンジバル(現タンザニア)出身のイギリス在住の作家である。アフリカ出身だが、作品は英語で書かれている。過去にもアフリカ出身作家のノーベル賞受賞はあるが、アフリカ諸国語で書かれた作品はひとつもなく、すべて英語によるものだというから、まだまだノーベル賞は欧米よりなのかもしれない。それはともかく。

なかなか歯ごたえがありそうな厚い本なので、ちょっとした旅のお供に連れて行ったら、思いの外ぐんぐんと読めてしまって、途中で読み終えてしまった。その後の本不足に悩んだことは言うまでもない。

時代は二十世紀初頭。ザンジバルの少年、ユスフの12歳から18歳までの姿が描かれている。父親の借金のかたとして、裕福な商人、アズィズおじさんに引き取られたユスフは商売の手伝いをし、隊商に加わってアフリカ奥地まで困難な旅に出る。美しい容姿に恵まれた彼をめぐる様々な運命・・・。アフリカにヨーロッパ諸国が急速に入り込んだ時期の物語である。当時のアフリカ人側から見たヨーロッパ人の姿、印象、そしてアフリカ内部での様々な民族同士の軋轢などがとても興味深い。そして、ユスフという少年は感受性が豊かで賢く、魅力的である。読み進めるうちに、しかもどうやらとても綺麗な顔立ちをしていることも明らかになっていく。

途中でふと気が付いたのだが、ユスフという名前は「ヨセフ」である。「エジプトで人々を飢餓から救ったのはお前か?」みたいな戯言が書いてあったので、そうだと思う。美しい彼をめぐる女たちのいさかいなどは、どうやらクルアーン(コーラン)の逸話がベースとなっているらしい。

作者自身は、ザンジバルを脱出し、兄と二人でイギリスに移住して勉強し、大学で教えながら文学者となった人である。この物語の中でも兄とされる人物が何人か彼を支え助ける役割を果たしている。どんないきさつでイギリスに行き、どうやって身を立てて行ったのか、知りたいと思う。

ところで、今回のちょっとした旅は浜松市の秋野不矩美術館訪問であった。藤森照信による美術館本体と併設の茶室を見学した。面白い建物だったので、写真を載せておく。