流星ワゴン

流星ワゴン

2021年7月24日

「流星ワゴン」重松清 講談社文庫 28
重松清さんの本は、前に一冊読んだことがあると思う。でも、題名は覚えていない。そして、それ以来、また次を読もうとは思わなかったらしい。名前はよく聞くし、人気のある作家さんらしいのに、縁がないなーと思って、これを読んで、ああ、そうだったのか、と、この感じを思い出した。

この感じ。
誠実で、受容しようとしてくれていて、とても優しくて、熱心なんだけど、なんか違う、なんか足りない、って思ってしまう、この感じ。

38歳の男性が、妻に離婚を迫られ、息子は受験に失敗して学校に行かなくなり、家で暴れるようになり、もう嫌になっちゃって、死んじゃおうかな、と思う。そこへ現われたのが、一台のワゴン車。中には、交通事故で死んだはずの、とある親子が乗っていて、とても大切な場所へ、運んでくれるという。主人公には、大嫌いな父親がいて、病院で、いま、死にかけている。38歳だった頃のその父と、主人公は会って、いろいろな話をする・・・。

テーマは親子関係なのだろう。親の愛情は、ストレートには子どもに伝わらないし、子どもも、うまく親に気持ちを伝えることができない。残念なすれ違いを、そのままにしないで、理解し合いたい、分かり合いたいという作者の気持ちも、よくわかる。

だけどね。
妻が、ひどいんだもの。ここに出てくる妻が、理解不能。ってか、主人公も、そのまま、妻を受け入れようとするんだけど、これっぽっちも、妻を理解してはいない。妻自身も、何もわかろうとしていないみたいに描かれているし。まるでエイリアンのように、訳のわかんない生き物みたいな、妻。

もしこの物語が、中年男性の支持を得るのだとしたら、彼らにとって、妻って、こんな感じなのかなー、と、そら恐ろしくなる。

作者もそのあたりは多少分かっているらしく、それで、わざわざ斎藤美奈子女史に解説をお願いしたりしている。でも、さしもの美奈子さんも、あえて父子の物語にすることで、テーマをクリアなものにしている、としか論評していない。それしか、言いようがないものね。

作者は、ある意味では、誠実な人なんだろう。自分といフィルターを通して、自分が分かっていることしか、書かない。分かったフリはしたくない。そういうコトなんじゃないかと思う。だけどね。だけど、だからって、エイリアンのまま、放って置かれたら、どうなのよ。と、妻でもある私は思う。エイリアンである妻と、やっていこう、と決意するあなたはいい。でも、エイリアンと認識されたまま、生きていかなければならない妻は、どうしたらいいの。

2011/5/8