狐笛のかなた

狐笛のかなた

51 上橋菜穂子 新潮文庫

2006年、野間児童文芸賞受賞作。夫のすすめで読んだ。いやはや、すばらしい。息つく暇もなく、ぐいぐいと引っ張られていく。ファンタジーはあまり得意ではない私だが、まったく苦労なく作品世界に入り込めた。登場人物のまっすぐな心に胸打たれ、幸せになってくれと願いながら読み進めた。

ネタバレになってしまうので、これから読む人はここでやめたほうがいいと思うけれど。

これは、狐との純愛物語なんだね。最初、私は隠された貴公子との愛の物語かと思ったのだけれど、そうではなかった。狐と人間が同じ重み、敬意をもって描かれていて、それがまた、とても素晴らしい。

話はズレるけれど、安房直子の「きつねのゆうしょくかい」という物語がある。人間にあこがれているきつねの女の子が、おとうさんとおかあさんにお願いして、人間に化けて、人間を招いて夕食会を開く物語。きつねの子はとても幸せだった、というお話なのだけれど。それって、きつねがきつねであることを、ちっとも受け入れていないってことじゃないの、と私は思ってしまった。自分はきつねなのに、きつねなんかじゃない人間になりたいと願い続けて、たった一度だけ人間のふりをした、というお話。良い思い出だなあ、で終わればいいのだけれど、あまのじゃくな私は、自分がきつねであることを好きになれない話、自己否定の話みたいに思って、あんまり好きになれなかった。ということを、唐突に思い出した。

「狐笛のかなた」では、狐も人間も同じ重みをもって大切に描かれているのがいいなあ、と思ったのだ。大事なもののために、困難に立ち向かい、純粋に愛のために生きる。そんなことが、素直に受け入れられるこの物語が、とてもいいと思ったのだ。