自殺

自殺

2021年7月24日

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「自殺」末井昭 朝日出版社

 

私は死にたいと思ったことがない。と言ったら、随分前だけど、ひどく驚かれたことがある。普通に生活していたら、人は一回や二回は死にたくなるものだとその人は言った。そんなもんなのか?
 
正確に言うと、ここからいなくなっちゃったら楽かもねー、と思ったことはある。そう思ったら、妙に気持ちがすっとした。実際にはいなくならなかったし、それは良くないことだと思ったけどね。自殺したい、って思う人は、同じような気持ちなのかもしれない、とちょっとわかった気がした。
 
この本の作者末井さんは割に有名な編集者で、私はどっちかって言うと、「たまもの」(神蔵美子)を読んでいたから、坪内祐三の奥さんをとっちゃった人、という印象が強い。実際、この本にも美子ちゃんはよく出てくるし、坪内さんのことも話題になっているしね。
 
末井さんのお母さんは、末井さんがまだ子どもだった頃に近所の若い青年とダイナマイト心中をしている。それって、すさまじい経験だ。そこから出発して、末井さんは工場に勤めたり、逃げ出して専門学校に通ったり、看板屋になったり紆余曲折あって編集者になる。その後も博打や不動産や先物取引などでとんでもない借金を抱えたり、前述のようにW不倫に苦しんだり、波乱万丈の人生だ。そんな末井さんが、自分の失敗やかっこ悪い体験を正直に話しながら、自殺はしちゃいけないよ、どんなことをしてでも人はなんとか生きていけるんだよ、と書いたのがこの本だ。
 
先日、夫が「坂口恭平 躁鬱日記」を読んでいた。面白い?と聞いたら、「まあ、読み応えはあるんだけどね」と言ってから少し考えて「でも、気持ちが持ってかれちゃうんだ。だからあまりおすすめできないな」と言った。それで、私は読まなかったのだけれど、この本も似たようなところがあるのかもしれない。
 
毎日なんだか死にたくて死にたくてたまらなくなっている人には、この本は意義ある美しい本なのかもしれない。でも、基本的に死にたいとは思わない私は、読んでるとなんだか嫌になっちゃうのだ。借金だらけだし、お酒もやめられないし、女にはだらしないし、お金なんてどうでもいいと思いながら博打に走っちゃうし、ダメダメな自分を受け入れて、それでも生きていこう、と優しく語られてもな~、と思っちゃう私は固いんだろうか。
 
とりわけ違和感があったのは、せっかく大病を克服した友人が、お酒の飲み過ぎで肝機能障害で亡くなった話に対して、それは緩慢な自殺だったのかも、と認めつつ、自分も自殺はしないけど、緩慢な自殺はするかも、と書いているところ。それを「死を少しずつ受け入れること」と肯定しているけれど、そうなのか????と私は疑問でならない。その亡くなってしまった人は永沢光雄さんで、私はこの人の書くものが好きだったから、なおさらだ。酒浸りになって、徐々に自分を殺していくことを肯定して、何が反自殺だ、と私は思わずにいられない。
 
私だってダメダメな人間だし、間違ったり失敗したり嘘ついたりするけれど、でも、お酒や博打に逃げ込みたいとは思わない。お酒や博打で気を紛らわすのは、ダメな自分を受け入れていることになるのか??と不思議でならない。
 
誰もがそんなに立派になれないんだよ、と末井さんは言うのだろう。私も全然立派じゃないよ。ダメなまんま生きていくことって大変だけど、なんとかやっていこう。そこんとこは、同感だ。でもなー。なんだか、この本をよんで、私は疲れた。なんか違う、と思った。
 
 

2014/7/28