14角幡唯介 新潮社
「地図なき山」以来の角幡唯介である。無謀な探検家であるくせに非常に理屈っぽく、いつも自分の行動を論理化しようとしている人だ。そんな彼がもう48歳になったという。若い頃は誰もやらなことをやりたい、生と死のぎりぎりの狭間を行くことで生きている実感を得たいと考えていた人である。だが、様々な経験を経て、かなり危険なことでも「ああ、あれか」とどこかで大丈夫な気になってしまう反面、体力は確実に衰えていく。できるとわかっていることをすることの意味を考えたりもする一方で、家族ができ、この世へ生還することへの希求も強まる。勢いがあるのは若い頃だ。だが、年齢とともに経験が深まり、内実が充実していくことも否めない。
というわけで彼は、人生の頂点は43歳で迎えるといういささか乱暴な説を唱えるのである。その根拠の一つは、過去に著名な登山家や冒険家の多くがこの年齢で亡くなったという事実である。植村直己、星野道夫、長谷川恒男、河野兵市、谷口けい。そしてまた、45歳で割腹自殺した三島由紀夫や40代で釣りの世界に移行した開高健までもが事例として取り上げられる。
冒険家のくせに極めて文学的な思考が繰り広げられ、つい、めんどくせー男だなーと何処かで思いつつも、これだけの冒険を成し遂げてきた人間の内面の深さに感嘆もする。43歳が頂点だからといって、これからは落ち目だとは彼は言わない。これからがむしろ楽しみだとすら書いている。経験を活かす舞台が待っている、とも思っているのだ。
かくいう私もいつの間にやら60代に突入していた。自分で自分に驚いている。たしかに年齢は体力を劣化させる。気力も衰えていく。記憶力も学習能力も、悲惨な有り様だ。だが、その反面、自己肯定力、現状受容力はなぜかむくむくと増えていくのを感じる。今できることを今やっておかないと、明日は今より年を取っている、という気持ちが、これまで躊躇してできなかったたくさんのことに自分を向かわせる。
頂点43歳か。その頃私はまだまだ子育ての真っ最中で、ヒイヒイ言いながら毎日を過ごしていた。頂点だなんて思う余裕もなかった。でも、たしかに今よりも頑張れたものなあ。よく頑張った、私、と今ならただただそう思うばかりである。
