物語のものがたり

物語のものがたり

47 梨木香歩 岩波書店

児童文学にまつわるエッセイ集。本の半分以上が「秘密の花園」考察であり、その後に「借りぐらしのアリエッティ」「木かげの家の小人たち」、石井桃子、「赤毛のアン」、「リンバロストの乙女」「不思議の国のアリス」、ビアトリクス:ポター、などについて書かれている。そして、最後には鶴見俊輔、別役実と三人で物語について鼎談が行われている。

「秘密の花園」は「挑発する少女小説」で斉藤美奈子も取り上げていた。あの本では、その他に取り上げられた本にひっぱられて「秘密の花園」にあまり気を取られなかった私である。が、こうして改めて丁寧に分析されると、なるほど…と感心するのである。

インドで生まれ育ったメアリは、誰にも顧みられない少女であった。屋敷のあらゆる人たちがコレラに倒れ、たった一人生き残っているのを父の同僚たちに発見され、保護され、英国のおじに引き取られることになる。という導入を、幼い頃に「秘密の花園」を読んだ私は確かに覚えているのだが、それが実はどんな状況なのか、どんなに恐ろしいことであるのか全く理解していなかった。メアリにはなんでも世話してくれる女中がいて、どんなに威張ったり、怒ったりしてもいいなりになって言いつけを全部聞いてくれていた、ということだけが印象に残っている。たぶん、子どもの私には、そっちの方が羨ましかったのだろう。両親は、メアリのことを気にもかけなかったし、英国に送られたのちも叔父はメアリに会おうともしなかった。打ち捨てられたまま十歳まで育ったのがメアリなのだ。そのメアリの成長物語が「秘密の花園」である。誰にも関心をもたれず、誰にも愛されず、誰も大事に思えず、誰も好きにもなれなかったメアリ。それを改めて知らされると胸が締め付けられるような思いがする。もしかしたら、私もメアリと近いところにいたのかもしれないとも思う。そのときには、それがわからなかった。でも、私は子ども時代、何度も何度も「秘密の花園」を読んだ。知らず知らずにこの物語から、私は何を受け取っていたのか?それを確かめたくて、もう一度、「秘密の花園」を読み返したくなった。

最後におまけの様につけられた鶴見俊輔と別役実との鼎談は、遅れてきた鶴見ファンの私には思いがけないプレゼントであった。鶴見さんは言葉少なで発言が少ししかないが、ご自分の幼少期の母親との関係性を語っていて、それが彼の人生にどれほどの大きな影響を与えたのかが痛いほどに伝わってきた。

子どもの頃の読書体験は、その人の一生を支える。と改めて思う。私は本を読む子どもであれたことを嬉しく思う。そして、これからの子どもたちにも、その喜びを知ってほしいと願う。