26 養老孟司 中川恵一 エクスナレッジ
「養老先生、再び病院へ行く」では、心筋梗塞で入院して以来の再診を受けて、今のところお元気、という内容であったが、今度はがんである。最初、肩から背中にかけて痛みが出て、先生は単なる肩こりか五十肩かと思っていたそうだ。鍼灸師の資格を持つ先生のお嬢さんがマッサージをしても良くならず、これは内臓疾患である、肺が怪しいと睨んだものの、養老先生は病院嫌い。しょうがないので主治医で教え子の中川恵一医師に電話して事情を説明、診察を受けるに至り、肺がんが発見されたという。
病院嫌いで医療嫌いの養老先生がおとなしく治療を受けてくれるかどうか、中川医師も家族も大分心配したようだが、養老先生は、今回は淡々と医療にしたがった。というのも、ご自分が主宰された、鎌倉の建長寺の虫供養と、鶴岡八幡宮にある鎌倉文華館鶴岡ミュージアム「蟲???養老先生とみんなの虫ラボ」という展覧会にどうしても出席したかったからのようだ。治療は抗がん剤と放射線。確定診断のためには面倒で苦痛も伴う検査をいくつか受けねばならない。これまでの養老先生なら断固として拒否されるところだったが、今回はおとなしく全てしたがったそうで、よかった、よかった。ちなみに、抗がん剤治療の副作用はほとんど出ず、髪もあまり抜けず、食欲も衰えなかったという。
ご自身が勤めていらした東大病院を先生は嫌っていたが、今回の入院治療で「東大病院も随分変わってきたね」と感想を述べたという。かつての東大病院は、政治(教授になれるかどうか)が一番、研究(論文が書けるかどうか)が二番、臨床(患者の治療)が三番だったそうだ。中川医師も、内部にいて大きく変化したことを身にしみて感じているという。患者本位の医療に変化しているというのなら、それは本当に良いことだ。
養老先生とほぼ同じ年齢だという中川医師のお母様の話も少し載っていた。転倒事故から入院し、尿路感染で敗血症を起こしたというから、おお、いま入院中の私の母とほぼ同じ経緯である。高齢者の敗血症の死亡率は極めて高く、本人も助からないと思い込んで安楽死を望んだほどだったというが、無事回復して、今は老人ホームでお過ごしだという。毎日のように、おいしいものを買ってこいだの、化粧品を持ってこいだのスマホでうるさく言ってくるけど生きててくれてよかった、と中川医師。うちの母もそうならないかなあ、と思いながら読んだ。
それにしても養老先生、もう少し生きていてくださいね。お大事になさってください。