いるいないみらい

いるいないみらい

2021年7月24日

「いるいないみらい」窪美澄 角川書店

私はこの作者の「さよなら、ニルヴァーナ」がきらいで、「じっと手を見る」が好きである。同じ作者でどうしてこんなにも好き嫌いが分かれるのだろう、と不思議である。で、この「いるいないみらい」は、わりに好きである。

なにが「いる」のか「いない」のかというと、子供である。子供がいる未来、子供がいない未来について五篇の短編が集められている。かつて斎藤美奈子は「妊娠小説」で、文学には望まない妊娠を扱ったジャンルが多くを占めている、と看破したことがある。それにたいして、これは、望んでも得られない、あるいはそもそもが望まない妊娠というジャンルである。

恋愛の嵐に乗っかってたら、子供出来ちゃって困ったなあ、的な妊娠小説よりも、こちらのほうが身につまされるのは、私が女だからだろうか。妊娠したかもしれない、という事実は、それが望ましいものであれ、そうでないものであれ、女性にとっては人生を揺るがす大事件であり、実際にその後の人生は全く変わってしまう。それを得られない、ということもまた、同じである。

ほしいのにできない。いらないのにできてしまう。どちらも大変である。一年に一歳ずつ歳を取るのが人間であり、女性の体には、年限があるからこそ、本当に大変。そこにスポットを当てて、丁寧にすくい取った短編ばかりである。

思えばこの処読んだ本は、「小箱」は死んだ子供の話であり、「私のなかの彼女」は流産をする話であり、この「いるいないみらい」は子供ができない、いない話である。取り立てて選んだわけでもないのに、こう続くか、と驚いている。

子どもがいようといまいと、あなたと一緒にいたいから、一緒にいるのだ、という場面に何度も出会う。そういう夫婦であってこそ、と思う。

2020/4/11