84 米原信 文芸春秋
鶴屋南北が大活躍していた江戸後期の歌舞伎界の物語。市川團十郎と尾上菊五郎がしのぎを削り、そこへ岩井半四郎や松本幸四郎も絡んでくる。團菊(團十郎と菊五郎)は楽屋で罵り合いのケンカをし、時に逃げ出したりもするが、互いに実力は認め合っている。鶴屋南北はそんな二人を生かそうと奇想天外な物語をつくりだす。そこへ小屋の金主の今助が悪だくみを企る。助六に菅原伝授手習鑑、四谷怪談に忠臣蔵…様々な演目が登場する。
歌舞伎にめっぽう詳しい作者で、江戸弁も闊達だな、と感心していたのだが、読み終えて驚いた。この作者、オール読物新人賞の受賞者なのだが、19歳の最年少での受賞である。九歳の時にからくり人形芝居「忠臣蔵」を見て興味をもち、仮名手本忠臣蔵の絵本から歌舞伎にはまったという。その絵本って、きっと橋本治だ。私も橋本治の歌舞伎絵本は大好きだ。作者、現在大学生だってさ。子どもじゃん(米原様、ごめんなさい。)と思っちゃう私はおばさんである。
少し前、映画「国宝」を見てきた。素晴らしかった。三時間があっという間であった。もともと歌舞伎は好きなのだが、そんなにたくさん見ているわけではないし、ただうっとり見ているだけの素人ファンである。高校時代に日本舞踊同好会に入って踊りを習ったのも歌舞伎が好きだったからだ。からっきし下手だったけど、映画を見るのには役立った。先輩が躍っていたあの鷺娘、あの振付がこんな風になるのか。娘道成寺がこんなにダイナミックになるのか。スクリーンに吸い込まれるように夢中で見入ってしまった。
この本の作者が歌舞伎にはまって夢中になって、小説まで書いてしまった気持ちはわかる。歌舞伎には魔力がある。この世のものとは思えないほど、美しく、恐ろしい世界があらわれる。それを演じているのは生身の役者で、普段は怒ったり笑ったりご飯食べたり寝たりしているのだけれど、それもわかっているのだけれど、ひとたび舞台に立つと妖しい光を放ちだす。
そんな歌舞伎の魅力と面白さをこの小説は存分に描き出している。すごいじゃん、まだ子どもなのに(また言っちゃった、ごめん。)。末恐ろしい。これからが何と楽しみな作家だろう。
