まちの植物のせかい そんなふうに生きていたのね

まちの植物のせかい そんなふうに生きていたのね

2021年10月11日

82 鈴木純 雷鳥社

ここ一年ばかり、毎朝お散歩をしている。健康のためでもあり、気分転換のためでもある。近所の神社の長い階段を登ってご挨拶してから、今日のルートを選んで歩く。城址公園や、八幡神社や、ローカルな学者を祀った神社など、目的地はいくつかある。

それぞれの場所にはおなじみの木々が植わっており、花が植えられたり、勝手に生えていたりして、毎日歩いているとちょっとした変化にも気づくようになる。いつの間にか芽が出て、花が咲き、散り、葉が青々と茂り、実が付き、紅葉しては散っていく。そんなことがこんなに楽しく、美しく魅力的に見えるようになったのは私が歳をとったからだろうか。若い頃は、花が咲こうが、葉が色づこうが、ああそんなもんか、としか思っていなかったような気がする。

これは、野山に行ったり、どこかに遠出しなくても、玄関を開けただけで出会える植物たちの面白さを教えてくれる本である。シロザやアカザ、ツメクサにネジバナ、ツユクサにヤブカラシ、シロツメクサにヒガンバナ・・・。おなじみの、どこにでもいる植物がどんな風に生きているのか、どんな風に工夫をこらしているのか、どんな部品でできているのか、どうやって子孫を残しているのか。知らなかった興味深い事実を楽しい文章とはっきりとわかりやすい写真で楽しく教えてくれる。これ、中学生ころに読んでいたら、もっと生物が楽しくなったかもしれないなあ・・。

異国からやってきた、ヒョロヒョロとオレンジ色の花を咲かすナガミヒナゲシ。確かに見の中には小さな大量の種が入っているのは知っていたが、この作者、一つの実にいったい何個の種が入っているのか、と知りたくなってしまったから大変。数え上げた結果が2858個。いやはや、ご苦労さまでした。

作者の母校である東京農業大学の造園科には「葉っぱテスト」という試験があったという。キャンパス内で見られる樹木180種を、葉の特徴だけで見分けられるようにするというものである。先生人が総掛かりで新入生に樹木の名前を教え込んでいく。ただの葉っぱにしか見えない一つ一つの名前を教え、その見分け方を伝授する。見慣れた風景が、一つ一つの葉の違いを知ったことによってすっかり新しく塗り替えられたという衝撃を彼は受けたという。樹木の名前を教えながら、先生たちは口元に何故か笑いを浮かべていたという。いつの間にか、自分も同じ顔をしながら、人に樹木の名前を教えていることに気がついたという作者。植物の名前を知ることは、その植物と仲間になるような、もっと深く関われるようなことなのだろう。

私には、時々、植物の図鑑のような美しい絵手紙をくれる友だちがいる。それを眺める度に、少しずつ植物の友だちが増えていく。散歩が更に楽しくなっていく。植物を知ることは、世界を知ることで、それはきっと人生を楽しくすることなのだ、と思う。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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