11 高野秀行 有限会社AISA
これはいわゆるZINEである。自費出版の小冊子だ。私は以前に宮田珠己やいしいひさいちのZINEを買ったことがある。大手出版社を通さない分、好きに作れるものなのだろうか。あとがきで高野さんは
ノンフィクションや旅行記というのは書くのにひじょうに時間と労力がかかる。構成やオチを考えなければいけないからだ。でも今回はZINEだから「旅日記」でいいらしい。出来事を時系列に並べるのなら簡単だ。(引用は「チャットGPT対高野秀行」より)
と書いている。でも、実際には、思っていたよりも書き上げるのに結構手間がかかってしまったらしい。そのおかげでとても面白い旅行記に仕上がっていて、ぐいぐい引き付けられた。あっという間に読めてしまった。
自主サバティカル休暇と称して長い休みを取った高野秀行。実際は父の介護サポートや看病、没後のあれこれでてんてこまいだったという。そこで三週間ほど、仕事抜きでのんびり海外を旅したいと考えた。トレッキングをテーマにチャットGPTに相談して決めたのがキプロス、トルコ、クルディスタンの旅である。
チャットGPTは口のうまい営業職のようなもので、旅について相談するとすごく褒めて持ち上げてくれ、計画もサクサクと案内してくれるのだが、実際に現地に訪れると微妙に嘘が混じっていたり、全然うまくいかないことが出てくる。いうことがあいまいで聞く度に返事が違っていたりもする。
そんなこんなでキプロスについたはいいが、空港から宿に行くまでで一苦労、あるはずのバスがなかったり、実は移動はレンタカーじゃないと旅が難しかったり。これ、あるあるだなあ。それでも探検家、高野秀行である。現地の人に助けてもらったり、期待したほど助けられなかったりしながらも、ちゃんと旅を続行する。バスに乗り遅れそうになったりはするけれどね。
キプロスはギリシア神話の舞台でもある。亡くなった高野秀行の父親はギリシア神話のマニアであったので、きっと父の魂はこの地にある、と信じた高野氏の墓参りの旅でもあるのだ。
現地のスーパーで食べ物を仕入れてホテルの部屋で飲み食いするのが一番うまい、というのは同意する。海外に行くと一皿がやたら大量だったり、予定したのと全然違いものが出てきたりするので、スーパーで食材を買い込んでの食事のほうが快適なことも多い。現地の人たちがいつも食べているものこそがおいしいというのもまた、確かであるし。
私たちもこれから海外旅行が待っていて、近づいてくると面倒だなあ、なんでこんな事計画しちゃったんだろう、なんて気が重くなってくるものなんだが、これを読んだら、まあ、いろいろあっても楽しめるしな、何とかなるしな、と気が軽くなった。
書いてみたらどんどん長くなって、結局これはキプロス編だけのZINEとなったという。これがうまく売れたら続編トルコ、クルディスタン編も書くそうだけど、どうなるかなあ。面白いからぜひぜひ続きも読みたいのだけれど。みんな、売り上げを伸ばしてあげてね!
