169 河崎秋子 小学館
「介護者D」を以前に読んだことがある。この人、芥川賞受賞者なのね。羊飼いを生業としていて「安住紳一郎の日曜天国」で羊の飼い方について語っているのを聞いたことがあった。生き生きとして面白い人だと思ったのを覚えている。「介護者D」を読んだのは、実家の老母のところに毎月泊りがけで介護に通っていた時期だった。些細なことの積み重ねに徐々に追いつめられる感覚は身につまされたし、わかるわかると思ったのだった。
「介護者D」は小説であった。この本はエッセイである。その中で、お父様が脳内疾患で倒れて家族全員で介護にあたるようになった経緯とその後が書かれている。みんなで力を合わせて介護にあたって、父への愛も確かにあって、でも少しずつ疲労がたまっていき、それが限界に近づいていく様子が小説よりさらにリアルにわかる。
酪農家の家庭に育った作者は大学を卒業して、羊飼いになりたくてニュージーランドに修行に行き、帰国して実家の牧場の片隅で羊を飼い出す。家業の牧牛の世話もしつつ、羊飼いとしても徐々に業績を上げていき、その一方で文筆を始め、しかも、そこに突然父の介護が加わる。様々な重荷がのしかかる中で、文筆でいくつかの賞を受賞し、最終的にやるべきことを選択していく過程。感情に流されず、でも、丁寧に、静かに自分の内面を見つめる目はさすが芥川賞作家である。よく頑張った、よく頑張っている、とつい母目線で読んでしまった。
家畜を育てること、それをと殺し、食肉とすることに対する冷静な視線は学ぶに値する。生きるということ、そのために命をいただくということへのリアリズムだ。教えられた、と思う。家族への思いも、自分のやりたいことの選び方も、同じように冷静に淡々と見極めている。もちろんその内側には情熱が込められている。
頑張れ、と思う。ほかの人が出会えなかったような、したことがないような経験をいくつも乗り越えながら、その時々でよく考え、選んできた作者は、きっとこれからもよいものを書く。そう信じられる。読んでよかったと思える本であった。
