あのひの音だよ おばあちゃん

あのひの音だよ おばあちゃん

2021年7月24日

「あのひの音だよ おばあちゃん」  佐野洋子

息子が幼稚園の頃、かかりつけの医者の待合室で見つけた本。以後、ことあるごとに何度も読み返して来ました。12月にある読書会「よみきかせスペシャル」のネタを探していて、「これは」と思い、試しに我が家で読んだのだけど、おちび(小三)は無反応。途中で、他の本を読み出す始末です。高二の息子が、意外にも面白がって、最後まで聞いてくれました。と、言うことは、やっぱり大人向けなのね。まあ、そうだろうなあ・・・。

ねことおばあちゃんが二人で暮らしています。ねこは、自分がこの家のねこになったいきさつを知りたがります。

「おまえ、なかないかい。」

「なかない。」

「おまえ、おこらないかい。」

「おこらない。」

話し渋るおばあちゃんにせがんで、ねこはその日の話を聞きます。

あるひどい雪の日に、大きな大きな豚がやってきて、やせこけて、みっともない小さな赤ちゃんねこを無理やり置いていくのです。

一人で暮らすのが好きだったのに。

ねこなんてきらいだったのに。

だのに、まだ赤ちゃんのねこが病気だと聞いて、おばあちゃんはあわててねこを引き取って、「このねこ、うちのねこになりました」と豚に言うのです。

しばらくして、ねこは元気になり、それほどみっともなくもなくなった頃、豚が確かめに来ると「あなた、もしかして神様?」とおばあちゃんは聞くのです。

なんにもできないねこ。

おばあちゃんにいたずらしてばかり、わがまま言ってばかり、お手伝いも出来ないねこ。

そんな話をしているあるひどい雪の日に、また、あの大きな豚がやってきます。

今度はかっこいい、何でも出来ちゃうすばらしい黒猫を連れて。

黒猫は、翌日から、すばらしい料理を作り、おばあちゃんの編み物を代わりにどんどん編み上げ、お掃除をし、片づけをし、そしてすばらしいマジックまで見せてくれます。

でも、すばらしい黒猫が来ても、おばあちゃんもねこも、あんまり幸せじゃありません。

黒猫は、おばあちゃんの心の中の願いを、すばらしいショーにして見せてくれます。

その中で、春になり、花が咲き乱れ、おばあちゃんとねこは二人で川へ遊びに行きます。二人は幸せそうに笑っています・・・。

赤ん坊なんて、好きじゃありませんでした、私。子どもが欲しいなんて、思ったこともありませんでした。それなのに、ある日、私のおなかから、ひとりのみっともないちっぽけな赤ん坊が生まれて。その赤ん坊は、何もできないばかりか、私の貴重な睡眠時間と体力と、私の自由を暴力的に奪い取りました。だというのに。この子、私の赤ちゃんになりました!と世界中に発表したいくらい、それが幸せで、大事なことだったのです。

時はたち、赤ん坊はだんだん大きくなって、生意気な少年になりました。しょっちゅう病気もしましたし、何でもできるというわけには行かなくて、逆上がりやのぼり棒ができなくて、毎日付き合って練習したり、友達とうまく行かなくて、ひとりぐずぐずしているのを励ましたり、思い通りにならなくて泣き喚いているのを何とかしなくちゃいけなかったりもしました。

でも、だからといって、何でもできるカッコいい子どもが欲しいわけじゃない。何でもできるすごい子供が来てくれたら幸せって訳では全然ない。この、みっともなかった、病気ばっかりした、苦労ばっかりさせるこの子じゃなくちゃ、ダメなんだ、この子が、大事なんだ、としみじみ思うのです。

そういう気持ちが読んでいて、うわーっと湧き上がってきて、なんだか泣きたくなってしまうのですが、そんなの、子供には全くわからないわけで。まあ、そうでしょう。大人たちでこそこそと読みあって、ひそかに涙ぐむ本なのかもしれません。読書会のネタ本にするのは、あきらめました。

2007/8/9