イタリアン・シューズ

イタリアン・シューズ

122 ヘニング・マンケル 創元推理文庫

旅先で手持ちの本が無くなったので夫が読み終えた本を回してくれた。自分では選ばない本を読めるのも、旅の醍醐味かもしれない。

スウェーデンの小島にたった一人で住む、元外科医のフレドリック。たまに訪れる郵便配達だけが会話の相手だ。そこへ、37年前に捨てたはずの恋人がやってきた。彼女は不治の病に侵されていた。遠い昔いつか連れて行くと約束した森の中の湖に連れて行けというのだ。その旅が、彼の人生を思いがけない方向へ動かしていく。

フレドリックは、わがままで身勝手で思いやりのない男だ。だが、彼は自分を知っている。そして、すべてが自分の選択であり、自分の責任であることを知っている。「教誨」を読んだ直後だけに、そんなことを思わずにはいられない。周囲によって環境によって歪められ、貶められていってそれに抗うこともできなかった人生をたどった後にこれを読むと、いっそ清々しいほどの自己完結に打ちのめされる。

登場人物はみな強烈な個性と自我の持ち主である。だが、時として環境に負けてひどい結末を迎える若い命もある。それが強く印象に残る。スウェーデンの僻地で、世界中の有名人やセレブのために靴をあつらえる職人が出てくる。彼が作る靴が「イタリアン・シューズ」だ。フレドリックは思わぬいきさつで自分のための靴を作ってもらう。

どんなにひどい偏平足であろうと、ひねくれた足であろうと、自分の足そのものにぴったりと沿った、ありのままの自分をそのまま受け止める靴こそが素晴らしい。美しくカッコ良く見せかけても足に合わない靴ではダメなのだ。というのがこの題名の主旨、なのかもしれない。

腹立たしいほど勝手な男なのに、惹きつけられ、最後まで一気に読んでしまった。この本には「スウェーディッシュ・ブーツ」という続編があるという。なんでまた靴なんだ。読みたいぞ。

作者は68歳で亡くなってしまったという。良い作家は早く亡くなるのか。惜しいことだ。