103 ザフラーン・アルカースィミー 書肆侃侃房
2023年度アラブ小説国際賞受賞作。
オマーンの小説を初めて読んだ。慣れていないので仕方ないのだが、一番大変だったのは登場人物の名前である。最初に出てきたのが「マリアム・ビント・ハマド・ワッド・ガーネム」で、これは女性。しかもいつもフルネームで呼ばれる設定である。その夫が「アブダッラー・ビン・グマイエル」。マリアム・ビント・ハマド・ワッド・ガーネムが妊娠中にひどい頭痛に悩まされ、井戸に落ちて溺死してしまう。彼女の死体を井戸から引き上げたのが「サラーム・ワッド・アーモール」で、死体のお腹から取り出されて助かった赤ん坊が「サーレム・ビン・アブダッラー」。遠い昔、初めてトルストイのロシア文学を読んだときの苦労を思い出す。自分がどれほど中東地方の文化と遠いところで生きていたかを痛感させられた。
サーレムは地中に流れる水の音を聞き分けられる力を持っていた。それがジン(悪魔)の力だと村人から疎まれるようになるが、水源を見つけられる彼の力が干ばつの村を救う。そして、彼は「水追い師」となって各地に呼ばれるようになる・・・・。
こう毎日暑いと干ばつにあえぐ中東地方も決して他人事ではない。これで水がなかったらどれほど苦しいだろう。そう思うとこの物語がやけに真に迫って読めてくる。厳しい自然の中で人々はジンに象徴される民間信仰にすがる。不吉な存在や呪いといったものが生活の中に定着し、それがイスラム教のクルアーン(イスラム聖典)と結びついている。不自由で窮屈な日々を想像するが、日本だって似たようなものだったのだろうとも思う。自然の脅威や災害の前で、人は無力になり、何かにすがりたくなるものだ。それは世界中どこでも変わらない。
高野秀行の中東地域関連本を何冊か読んで、この地域に興味があった。高野氏とはまた全く違ったテイストではあったが、知らない文化に触れるワクワクがあったことは間違いがない。
