33 高野秀行 本の雑誌社
我が家における「新刊出たら即買い作家」の一人、高野秀行氏である。この人は学生時代の著作から読んでるからねー。今回は朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒を飲んで暮らすエチオピアの村の話である。
実はこの民族の話は砂野唯氏の「酒を食べる」で知っていた。しかも、高野氏本人がこの地を訪れるテレビ番組「クレイジージャーニー」も観ていた。だから、何を今さら…と思っていたのだが、やっぱり高野氏である。放映された番組は、何となくぼんやりしていたというか、今一つつかみどころに欠けているかんじがしたのだが、それがなぜだったのか、その裏側で何が起こっていたのかがすべて書かれている。そして、当然のことながら、あの番組よりはるかにおもしろいし、詳しい内容になっている。
時間に左右されず、一人で出かけ、いたい場所にずっといて、その地になじみながら徐々に様々な情報を得ていくという、いつもの高野氏の仕事のスタイルとテレビ取材はかなり違う。時間的拘束はあるし、予算は組み込まれているし、事前に現地のコーディネーターが絡んでくるし、スタッフも大勢いて、そして必ず絵になる尺を撮らねばならない。しかも、現地コーディネーターが極めていい加減でこちらの意図を汲んでいないと来たもんだ。結果、取材班を歓待する豪華宿泊場所が準備されていたり、伝統的文化をお見せするためのヤラセというか、現地の人たちの演劇的行動があったりして、それらを排除するのに手間取り、本来の目的である取材をする時間がさらに限られてしまった。しかも、最も興味深い、最後に訪れた村での出来事は、編集でばっさりやられてしまっていたという。だから何かはっきりしなかったんだなあ・・。
驚くべきは、ほとんど固形物を食べず、毎日酒だけを飲んでいるこの民族が健康状態が極めてよく、体格的にも筋骨がしっかりしているということだ。酒が身体に悪いというのが世界の常識だというのに、この村では幼児も妊婦も一日中酒を飲んでいる。病院では入院患者がベッドで酒を飲んでいるのだ。酒飲みにとっては夢のような天国ではないか。たいそうな酒のみである高野氏にとっては極めて楽しい、いつまでも滞在したい村であったようである。
世界には、まだまだ私たちの知らない場所があり、知らない文化がある。それを劣っているとか遅れていると馬鹿にすることなど絶対になく、敬意をもち、親しく、興味深く、同じ地平に足をつけて歩み寄り、共に楽しむ。それが高野秀行氏である。この人の書くものは、だからどれも面白い。そして意義深い。これからも、高野氏の本は全部即買いするぞ。と改めて心に誓った本であった。
