120 有吉佐和子 河出書房新社
「青い壺」で有吉佐和子を再発見、「女二人のニューギニア」では彼女の思いもよらぬしおらしさと逞しさの両面を知った。長生きしてほしかったとつくづく思う作家である。というわけで、今回は題名も知らなかったこの本を旅のお供に連れて行った。
舞台は東京下町。もらわれっ子の清子は縫い子としての技術を仕込まれ、その家の自慢の息子、弘一を秘かに慕っている。帝大の学生である彼に学徒動員の赤紙が届いた日、針を踏みぬいてしまった彼女は足に障害を負う。戦中、戦後の混乱の中、弘一は復員したが、清子は家を出る。貰い親との距離、人間の変ってしまった弘一。その中で苦しみながら針一本で生きていく清子の物語。
戦争が人をどう変えてしまうのかをリアルに描いた作品。清子を愛していたはずの弘一の変貌、清子を慈しんで育ててくれていたはずの養母のねじれた嫉妬。時勢に合わせてたくましく生きる道を選ぶ友人。戦争そのものの恐ろしさというよりも、それによって変わっていく人間の恐ろしさと逞しさがひしひしと伝わってくる。清子は安易に好きな人との生活に流れされない。自分を貫き、一人で立つ勇気を持っている。その時代の女性をこんな風に描き切る有吉佐和子の強さ、まっすぐさに胸を打たれる。時代背景を考えると、これはものすごく勇気のある作品だったのかもしれない。それにしても有吉佐和子、惜しい人であった。
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