ドヴォルザークに染まるころ

ドヴォルザークに染まるころ

5 町田そのこ 光文社

町田そのこのテーマは、たぶん、ひと一人一人の尊厳だ。家庭のこと、子どものこと、虐待や放置のこと、親の葛藤のこと。いろいろあるけれど、結局、誰もがみな同じ重みをもった人間であり、それぞれが同じように大事な存在であり、認められ、大事にされなくちゃね、ということをいつも書いているんだと思う。

それは、尊厳を十分に認められたとは言いがたい家庭に育った私にとっても大きなテーマだ。ただ、今まで読んだ彼女の作品には、なんだか素直に受け入れられないものがどこかに少しあった。それは何かというと、登場する子どもが賢すぎるというか、分かりすぎているというか、語りすぎているような気がしていた。もしかしたら、私自身が賢くもなく、分かってもいない子どもだったから、そう思ったのかもしれない。

だけど、この作品にはそうした不満はなくて、それというのも登場人物の多くは大人であったし、子どもも、なんだかよくわからないけどつらい、周りの大人たちにはこう思われてるらしいけど、なんか納得いかない、みたいな不全感が描かれていたからだ。人は、自分の感情をそんなにはっきりと理解しているものではないし、ましてや何故そんな感じなのか、わかっていないことの方が多い。状況把握が大人よりも困難な子どもはさらにそうなんだと思う。

この作品には五つの連続した短編が収められている。同じ出来事もいくつか重なって登場するけれど、それがそれぞれに登場人物にとってどんなものだったかが重層的にわかってくる。みんな、一生懸命生きてるけど、どこかで上手くいかなかったり、ごまかそうとしても本当の気持ちが隠せなくてあふれ出てしまったりしている。年老いた人が、本当のことを言ってくれて、それに助けられることもある。それは良いシーンだ。

いろんなことを思い出す。私も、子どものころ、どうしても言えなくて、行動もできないけれど、おかしいと思っていたことがあった。若いころ、本当に辛いのに、それを言えなくて飲み込んだこともあった。何を選んだらいいか迷うこともたくさんあった。もっと自分を大切にしていい、とあるときに気が付いて、それが本当に私を助けてくれた。この作品も、そういう本だと思う。自分を大事にすることって怖いし、勇気もいる。しかもその機会は特別なことではなく、日常の中にいくらでも潜んでいる。逃げることもできるけれど、立ち向かう勇気があれば。もっとよく考えれば。そんなポイントは毎日のようにどこかにある。そんなことを思い出させてくれる作品だ。

とある過疎の町の、廃校になる小学校の秋祭り。ドヴォルザークの音楽が鳴ればおしまいになる、その一日の出来事。そこに、本当に様々なドラマがある。

それにしても第一行目は衝撃だった。それを見るためだけにこの本を手に取ってもいいかも(笑)。