30 瀬尾まいこ 水鈴社
瀬尾まいこは結構読んでいる。この人の物語には悪人はほぼ登場しない。「そして、バトンは渡された」を私はお伽話だと思った。「いつまでも幸せに暮らしましたとさ」を信じて、ああよかった、と本を閉じる。この本もそうだ。みんな一生懸命で善意にあふれていて、つらいことや苦しいことはあるけれど、憎んだり否定したり呪ったり悪意に引き裂かれたりはしない。現実もそうだったらいいけどな。そうではないんだよね。
主人公はシングルマザー。大事な一人娘を心から愛して大事に育てている。自分は母親としてだめなんじゃないかと時に不安にもなる。そこへ、前夫の弟が助けにやってくる。この弟、男性しか愛せない人なんだけれど、子どもが大好きで、娘に愛情を注いでくれる。主人公の母親は支配的で抑圧的。いろいろ要求してくるけれど、言いなりになっちゃだめだと周りの人が気付かせてくれる。ちょっと怖いように見えたママ友も、職場の同僚も、優しくて賢くていい人たちだ。子どもは時にわがままにもなるが、まっすぐ育っているいい子だ。そして、そんな我が子を彼女は心から愛している。イラついたり、なんでこいつこんななんだ、と腹を立てたりはしない。
いい物語だ。だけど、現実離れしてるよなー、とは思う。子どもは愛しくて何より大事で心から愛していたとしても、「なんで寝ないんだこいつ」「騒がないでくれ、誰のために苦労してると思ってんだよ!」的なイラつき、腹立ちを一切感じない親なんているだろうか。たとえ男しか愛せない前夫の弟だとしても、そんなに心から信頼してずっと一緒に行動できるだろうか。ママ友との関係だって、時にゆがんだり、よじれたりしないだろうか。抑圧的な母親だって、一回の拒絶であんなに物分かりよく黙り込むものだろうか。もっともっと壮絶な戦いがなければ、共依存関係なんて断ち切れないものじゃないのか。
と思ってしまう私は、現実にゆがめられている、心の偏狭な人間なのかもしれないけれど。こんな夢のようなおとぎ話を読んで、うっとりするには少しがさつき過ぎているのかもしれない。いい物語だけれど。心がほっこり癒されるけれど。だけど、だけど。人はこんなにまっすぐ美しく生きられるものなのかな。とどこかで思わずにはいられない。
