トランプ信者潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ

トランプ信者潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ

140 横田増生 小学館

Amazonやユニクロに潜入取材してルポを書いてきた作者が、トランプ陣営にボランティアとして潜入して一年、トランプ支持者たちの議会襲撃を目の前で見るに至った。民主主義のお手本であったはずのアメリカで何が起きたのかをリアルに報告している。

分厚い本だった。そして、何度も途中で読むのが嫌になった。全然、心が躍らないし、うんざりするし、逃げたいとさえ思った。でも、飛行機の中や旅行先だったので、隔絶された環境の中で、何とか読み切った。そして、読み切れてよかったとは思った。

トランプは恐ろしいほど嘘つきである。データや数字はもちろんのこと、ありもしない賞を受けたことにしたり、人の功績を自分のものであるかのように言う。「フェイクニュース」とは、自分に都合の悪いニュースのことであり、たとえ嘘であっても、都合のいい情報は真実であると言い張る。そして、そのファクトチェックの必要性は感じない。それが誤報であるかどうかを確認するのは、敵対する人々の仕事だからだ。彼の行った演説の中には大量の嘘が含まれており、それを一つ一つこの本は取り上げて根拠をもってそれを否定するのだが、あまりに嘘が多すぎて、だんだん無力感が先立ってくる。つまり、彼には真実を話そうという意思が最初からさらさらない。彼の思う、願う、都合のいい出来事を述べるだけで、それが本当かどうかはどうでもいいことなのだ。そして、それを信じ切る人たちが、大勢いる。多くの人がそれを真実だと言い、SNSに大量に書き込めば、まるでそれは真実であるかのように見えてくるから恐ろしい。

民主主義の理念、法律の定めに従ってトランプに反論する者に対し、彼はこういう。「おまえは私が嫌いなのか。」政治も、社会も、感情や好悪で動くべきではない。何が正しいか、冷静な判断と理念に基づいて決定されるべきだ。そんな当たり前のことが、彼には通用しない。

子供時代から、彼は、父親に、人生の勝負に勝てと教えられてきた。負けてはいけない。もし負けそうになったら、負けを認めなければいい。そうすれば、勝ったことになるからだ。彼は、それを大統領選で実際に行った。

日本にも同じような政治家がいた。私と妻は何の関係もない、と言い切ってしまったので、それを本当であるかのように見せかけるために文書を無理やり改ざんさせられ、死に至ったまじめな公務員がいた。その政治家もまた、たくさんの嘘をついたし、恐ろしいことにそれを本人ものちにあっさりと認めて謝罪までしながらお咎めもなく、それに何の良心の呵責もなかったようである。この世からいなくなったからもうその罪は問われないでいい、とは私は全く思っていない。

また、トランプが勢力を盛り返すのだろうか、と暗澹たる思いでいる。こういう人間が力を持つ世の中とはどういうことなのだろう。みんな、負けたくなくて、負けを認めなければ負けたことにはならないと信じたいのだろうか。そんな風に嘘で自分を固めて生きていくことを受け入れたいのだろうか。自分が偉くて立派であることがそんなに大事なんだろうか。

なんでこんな世の中になっちゃったのかなあ。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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