生きがいについて

生きがいについて

102 神谷美恵子 みすず書房

「名著の話」で伊集院光が取り上げていた。とても古い本。県立図書館の書庫から取り出されてきた。背表紙には、図書カードを入れる紙製のポケットが付いていた。こんなの、久しぶりに見た。1980年第一版発行。作者は精神科医で、哲学書や文学書の翻訳、エッセイ執筆などでも知られている。愛生園というらい病患者の療養所でハンセン氏病の治療に携わった。

「名著の話」では、教科書に載っているような本、誰でも知っているような本、そして、あまり知られていないが、とても伊集院の心に刺さった本、の三冊が選ばれたという。「生きがいについて」は、知られていない本としての一冊であった。非常に抑えた筆致で、静かに書かれた文章であるが、その底には、あらゆる人間に対する分け隔てない敬意と尊重、そして極めて自制的で謙虚な姿勢がある。読んでいて、思わずわが身を省み、襟を正さねば、という気持ちが湧いてくる。

人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。野に咲く花のように、ただ「無償に」存在しているひとも、大きな立場から見たら存在価値があるにちがいない。自分の眼に自分の存在の意味が感じられないひと、他人の眼にもみとめられないようなひとでも、私たちと同じ生をうけた同胞なのである。もし彼らの存在意義が問題になるなら、まず自分の、そして人類全体の存在意義が問われなくてはならない。そもそも宇宙のなかで、人類の存在とはそれほど重要なものであろうか。人類を万物の中心と考え、生物のなかでの「霊長」と考えることからしてすでにこっけいな思いあがりではなかろうか。
(引用は「生きがいについて」神谷美恵子より)

何かができるから、人に褒められるから、人よりも長けているから価値がある、とする考え方が、私は苦手である。たぶん、私自身が何のとりえもない人間だからなのだろうけれど、人と比べて上か下か、を考えることほど無駄で意味のない、そして自分を損なうやり方はないような気がしてならない。そうした基本的なものの感じ方、考え方が、この本によって深く受け入れられ、肯定された気がした。できない私、ダメな私であっても、そういう私を受け入れて、大事に生きていこうと思えるような本であった。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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