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「ママがやった」井上荒野 文藝春秋
もしかして、人を殺すのって本当はこんな感じなのかもしれない、と思う。淡々と、そのまんま事実を受け入れちゃうような。「テレビで観たって」というママの落ち着き払った様子は、むしろ妙にリアルだ。
ネタバレというか読み始めてすぐにわかるので書くけど、ママが殺したのは夫だ。夫っぽくない人だけど。この男の造形が、またすごいんだなあ。
もしかしたら、荒野さんの父の井上光晴ってこんな感じの人だったのかも、とちょっと思う。自分のやりたいことしか見えていない、人を傷つけるかどうかなんて想像もしない、悪気もない。全身小説家だからなあ。いい年をしてミック・ジャガーごっこをする彼の気持ちがわからなくもない自分にちょっと呆れた私である。
夫に全く文句を言わなかったママが、八十歳目前にして淡々と夫を殺す。そこから、逆戻りして家族や周囲の人達の姿が描かれていく。これって現代版「藪の中」のつもりもあるのかしら。
ラストがあっけない。これからどうなったかなあ。気になってしょうがない。
2016/3/16