29 村上由佳 文芸春秋
図書館に予約を入れてから長いこと待たされた。帰国したら順番が回ってきていた。次の人が待っているので急いで読んだ。
直木賞が欲しくてならない作家、天羽カインが主人公。南方権三、馳川周、一条院静馬など、聞いたような、誰だかわかるような作家名がちらほら出てきて笑える。編集者が作家にどのように伴走するのか、どのように各賞の受賞が決定していくのか、よくわかる物語。
天羽カインはわがままに見えるが作家としての矜持は深い。寄り添う編集者は無能な人間から、自分なりに誠実でありながらずれが生じてしまう人やら、思い込みが大きく、それゆえに問題を起こしてしまう人まで多種多様。まあ、強い創作意思を持つ人を完璧に理解、支援できる人間なんてなかなかいないよなあ。
文学界におけるパワハラやセクハラも垣間見える。意識の古さもあるし、それを指摘する若い女性編集者の発言も重要な意味を持つ。天羽カインは自分の間違いは素直に認め、むしろ指摘してくれたことに感謝する柔軟性がある。この作家としての誠実な態度が衝撃的な結末につながっていく。
面白い小説であった。大きな賞を取ることには大きな意味がある、それはとてもよくわかる。承認欲求という言葉一つでは片づけられないし、作品やそれを支える周囲の人々すべてへの大きなご褒美でもあるのだ。
本屋大賞のように、たくさんの書店員に認められ、多くの読者に愛される作品だと認められる賞にも、伝統的な文学賞とはまた違ったものすごく価値があるよなあと思う私である。
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