サザエさんの東京物語

サザエさんの東京物語

28長谷川洋子 朝日出版社

なんでこの本を読もうと思ったんだっけ。「サザエさん」の作者、長谷川町子は人見知りでおとなしい人だと思われていたけれど、実は家庭内では暴君であったとか、「サザエさん」の出版社である姉妹社の社長を務めた長谷川町子の姉まり子は気難しい人で、夫と過ごした家にとどまって自分たちと一緒に引っ越さなかった妹を生涯許さなかったとか、そんなことをどこかで読んだなあ・・。そうだ、きっと「人間晩年図鑑」だわ。もう、本は返しちゃったから確かめられないけど、そうだったと思う。

この本は、まり子さんに許されなかった妹の洋子さんの書いた本。確かに、押しの強い母と姉たち二人に囲まれて、何一つ思い通りにならなかった女性が、老後の引っ越し準備の時に初めて自由を味わって、もう一緒には暮らさないと決めた気持ちはよくわかる。それまでよく言いなりになっていたものだとさえ思うね。

町子さんが亡くなったときも、まり子さんは陽子さんにだけは知らせるなと厳命したらしく、こっそり教えてくれたスタッフも、知らなかったことにしてくれと言ったとか。そんなに許せないか、自分の意見を貫いたことが。のちに国税局が調査にきて、あんなに莫大な財産を遺産放棄しているけれど、本当に一銭ももらっていないのか、と陽子さんに尋ねたという。お金よりも自由です、と答えた陽子さん。そうだよねー。親子、姉妹の束縛しあう息苦しさを想像すると、お金なんてどうでもいいと思えてくる。かといって、この本は、町子さんもまり子さんも全然責めてはいないのだけれどね。

仲良さそうに見える家庭内にもいろいろあるわな、としみじみ思わされる本であった。「サザエさん」は今でも仲良し家庭の典型のように思われ、扱われているし、これからもきっとそうなのだろうけれどね。