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「エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦」
梨木香歩 新潮社
梨木さんは本当に世界中のいろいろなところを旅して歩いている。いつも静かで、草や木や風や水や泥や鳥と濃密に関わりあう旅ばかりだ。彼女は渡り鳥に強く惹かれているらしい。四年ほど前、「渡りの足跡」を読んだ頃は、なぜ、渡り鳥?と疑問に思ったものだが、この本では、鳥に惹かれる気持ちがなんとなく判ってしまう。それって、私が年取ったってこと?などとふと思ってしまうのだが。
エストニアという国は、常にどこかの強国の支配に置かれながら、密かにアイデンティティを温めてきたらしい。苦悩の連続であったが、スウェーデンに支配された時代だけは「古き良きスウェーデン時代」と振り返られるという。スウェーデン贔屓の私には嬉しい情報である。
古い貴族の屋敷をそのままホテルにしたその一室での不思議な出来事は、ちょっとしたホラー小説を読んでいるような趣で、怖がりの私にはぞくぞくするものであった。だが、その部屋にかけられた絵の女性を「アメリア」と呼んで仲良くなろうとする彼女のやり方には温かいものを感じた。
読みながら、目には古く静かな街の姿が浮かんでいた。それは水墨画のような陰影のある色彩のない風景だったので、中頃にいきなりカラー写真が表れて、戸惑いを感じた。これはどこか遠い昔の国の話ではないのだ、とはじめて気がついたような気がした。
読み終えて、エストニアという国へ行きたくなっていることに気がついた。豊かな森、静かな海、巣作りするコウノトリたち。草原に出て、私も魚のスープのピクニックランチを食べてみたいと思った。
2014/12/19
