ナショナル・ストーリー・プロジェクト

ナショナル・ストーリー・プロジェクト

2021年7月24日

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「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」
ポール・オースター 編 柴田元幸他 訳  新潮社

「博士の本棚」に載っていた本。この本は、アメリカのラジオ番組に全米から寄せられた体験談を編集したものである。載せられた179の物語は、名も知れぬ庶民から寄せられたものであるにもかかわらず、読者を最後まで引きつけてやまないものばかりだ。驚くべき内容も多々ある。しかし、人というのは、信じるに足る存在だと思わせてくれるものばかりだ。

この本が刊行されたのは、2001年9月13日。同時多発テロ事件の二日後。この本のプロモーションのために、編者オースターは全米の書店を回った。

編者オースターは、政権に就いている人びとをはじめ多くの人がアメリカの力と正義に対する信念をますます深め、その信念にのっとって行動する中で(要するに、なぜアメリカが嫌われ、なぜ9・11が起きたのかをわざわざ証明するような行動を採る中で)全国ツアーに出たのであった。
しかし、旅先にでオースターが出会ったのは、政府に同調して己の正義を疑わずに敵をもっぱら外に求める日人たちばかりではなかった。「いくつかの非常に切実な問いを自分につきつけてい」る人々に彼は出会った。「自分たちが何者であって、何を標榜していて、何を信じているか。この国の文明とはつまるところどのようなものなのか、この国の文化はいかなるものなのか」を真剣に考えなおしている人びとに出会ったのである(アルク刊『ナイン・インタビューズ 柴田元幸と9人の作家たち』より)

(「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」訳者あとがき より引用)

国とか、地域とか、あるいは県や町とか、様々な区分の中で、私たちはナショナリズムというものを体験する。しかし、どこの土地においても、どんな人びとの中にも、同じものが確かに息づいている。人間としてのあり方、思い、喜怒哀楽を、私達は同じように抱え、感じ、生きている。それはあたり前のことだ。だが、たとえばあのような大きなテロ事件の後に、その当たり前は当たり前ではなくなってしまう危機に陥る。だとしても。大きな国家という枠組の中でも、一人ひとりの人間は、同じように笑い泣き悲しみ怒る。それを忘れないでいよう。

2011/11/28