古本食堂

古本食堂

110 原田ひ香 角川春樹事務所

「三千円の使いかた」以来の原田ひ香。夫からのおすすめ。正直、「三千円・・」は掘り下げが浅いんやないかい、と少々不満であったが、この本は、とても良い。なんでだろうね、と言ったら、夫が「まあ、古本と言い、物を食べることと言い、我々の好物だからね。」と。確かになあ。しかも、舞台が神保町。場所まで大好物ではないか。

北海道の老女、珊瑚さんが、兄の営んでいた神保町の古本屋を引き継ぐ。そこへ、姪の美希喜(国文科大学院生)が様子を見に来て、そのまんまお手伝いを始める。小さな章の中で、一冊の古本と、一つの料理が描かれる。これがもう、興味深く面白い本に、とてもおいしそうな料理で。

しかもしかも。知っているお店が登場するので、個人的にもとても楽しめてしまう。もうなくなってしまった、あの岩波ホールで、大好きな作家の生涯を描く映画を友人と見たときに入った小さなロシア料理の店。給仕する外国人の女性の仏頂面まで同じ。笑顔はないけれど、料理はおいしい。それから、独身時代から夫とよく行ったランチョンというビアホール。あそこのビールも、料理も、心がこもってなんとおいしかったことか。ああ、また行きたい。神保町は、良い本屋と良い飲食店がとても多い街だ。

古書店だから、古い本ばかり登場するけれど、よい物語や文学は、決して古びないということも教えてくれる。人の心をつかむ真実が、紙を集めただけの本という物質に集約されていることの美しさ、うれしさ、楽しさよ。

原田ひ香、やっぱりいいじゃないか、と改めて思った。食べることと、読むことは、ちょっと似ている。