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「寄生虫なき病」モイセズ・ベラスケス=マノフ
夫が借りてきて、「うーむ、面白い・・」と呻きながら三日かけて読んでいた本。重くて通勤途上に読むには辛かったようだが、大興奮して読み終えていた。読みながらちらちら会話の中に放り込んでくる情報が、「んなばかな・・・」的なものが多くて、「でもさあ」と異論を挟むと、「まあ、これを読んでから反論しなさい」だと。というわけで、私も分厚いこの本を四、五日かけて頑張って読んだ。
苦手な人にはごめんね。表紙はアメリカ鉤虫という寄生虫だ。この本の作者は自己免疫性疾患の治療のため、自らこの寄生虫を腸内に取り組む治療法に挑んだ。
近年増え続ける自己免責疾患、アレルギーなどの病気は寄生虫や細菌、ウイルスの激減、不在によってもたらされているという説を、あらゆるジャンルの膨大な研究結果や資料、インタビューなどから検証しているのがこの本である。
寄生虫に感染すると花粉症が治るという話は何年も前にテレビで聞いたことがある。んな馬鹿な・・・と聞き捨てていたが、いやいやそれは、実際に科学的に検証されつつある。本来、大量の寄生虫や細菌やウイルスにまみれて生きてきた我々人間の免疫系が攻撃する対象を失いつつある今、攻撃目標を間違って自分自身を攻撃し始めている・・・という流れは、なるほど、理屈としても十分理解できる。
筆者の全身脱毛症、喘息、花粉症などの症状は、アメリカ鉤虫感染後、どのようになったか。は、ぜひ本書をお読みいただきたい。世界中に、いま、寄生虫感染療法に取り組んでいる人がいる。ネットで高値で寄生虫が取引されている、というのもなんだかなあ、と思うが。
幼少期に牧場や農場で糞尿を含む泥や埃にまみれて育った人間のほうが、清潔な環境で育った人間よりはるかにアレルギーになりにくく、自己免疫疾患にもかかりにくい。それどころか、明確な悪役のはずのピロリ菌の保菌者のほうが、アレルギー疾患や狼瘡、多発性硬化症といった自己免疫疾患から心臓病に至るまでの多くの病気の罹患率が極めて低い。(かと言って、ピロリ菌駆除を筆者は否定しない。そこ、気をつけて。)このように、本来悪役を担わされてきた寄生虫や菌が、わたしたちの身体をいかに守ってきたかが、様々な症例、研究結果から丁寧に説明、分析されていて、目から鱗が落ちまくるのである。
大事なのは腸内細菌の多様性である。わたしたちの「清潔な」生活は、必要な菌、ウイルス、寄生虫を駆逐してしまっている。それが深刻な病を起こし、治療のため抗生物質を投与することで、さらにまた腸内細菌などを減少させる。そうしたものの「不在」が互いに影響し合い、さらに複雑な問題を連鎖的、相乗的に引き起こしている。本来我々が体の中に持っていたダイナミックなバランス、動的平衡が揺らいでいる、ということを指摘して、この本は終わっている。
アレルギーになったから寄生虫に感染しました、ハイ治りました、というような単純な物語ではないのだ。物事は、もっと複雑に絡み合っていて、簡単には解決できない。これを読んで、そうか、不潔になろう、と決意したところで、あまり意味は無い。
ただ、思うことはある。テレビCMなどで、パパのベッドは臭いから除菌しろとか、浴槽内は菌でいっぱい、とか、空気を除菌する薬剤とか、やたらと清潔にするためのものが売られているけれど、それは本当に健康に役立つのかな、と立ち止まってほしい。
よその人の握ったおにぎりは食べられない、どころか、お茶だって人が入れたものじゃなくてペットボトルじゃないと嫌だ、外では洋式トイレには座れない、もちろんつり革なんて掴まれない、図書館の本?汚そうでダメダメ!!・・・などという話は、少なくとも私が子供の頃なら笑い話にしかならなかったけれど、今じゃ真面目な顔でそういう人は、ものすごく多い。おどろくほど多い。菌がついているから、帰宅したら玄関で着ていたものはすべて脱ぐ、なんて話も聞く。除菌スプレーをダース買いして、毎日家中に振りまいて、家族の健康を守っているつもりの人も、いる。
そういう人たちはぜひこの本を読んでほしい。自分たちがやっていることがいかに馬鹿げていて、自分の首を絞めているかがわかるはずだ。
ところで、本書はいわゆるトンデモ本ではない。生物学の第一人者でもある福岡伸一氏が解説を担当し、
専門家でも驚くほど、広範・詳細に「不在の病」、つまり寄生者や常在菌がいなくなることによって、逆に引き起こされる異常事態、について現在解明されつつあることを調べつくし、緻密名までに分析・議論している。つまりこれを読めば必要なことが全て把握できる、現時点での決定版的解説書であるといえる。
(「寄生虫なき病」内解説 「不在」による病 福岡伸一 より)
と評価している。ゆめゆめ馬鹿にするなかれ、なのである。
2014/12/17
