53 三浦しをん 集英社
長い旅行中に自動録画してあったドラマ「舟を編む」を今頃になって見た。原作とは全く違う物語になっていたが、根底を流れる言葉への熱い思いはきっちりと押さえられていて、実に実に良いドラマであった。柴田恭兵が、あんな知的で愛情にあふれたおじいさんになれるとは思ってもいなかったよー。
原作を書いたのは三浦しをん。三浦しをんはいろいろな、あんまり一般的ではない職業の物語を書くが、どれもこれも素晴らしい。丁寧に取材し、資料を集め、職業人本人の話を聴き、深くそれを理解し、十分な敬意を込めてこそ作り上げられるものなのだろう。そこにあるのは、強い熱意、ひたむきな情熱、たゆまぬ努力であろう・・・。
と想像していると、エッセイのトンデモ感に愕然とさせられるのが、この方である。少し前に読んだ「好きになってしまいました」もそうであったが、実にだらだらした日常を送っていらっしゃる。いや、それこそ謙遜に過ぎなくて、実は真摯に仕事に取り組んでおられることとは思うのだが、そんな姿はみじんも感じさせないところがこの人のエッセイのすごさである。
コロナ禍のせいもあるのだろうな。ピカチュウに夢中になって等身大(?)のぬいぐるみを購入して同衾する話とか、エグザイル一族に夢中になる話とか、蜂が彼女の家に巣を作ってしまったのだが、その駆除をするハチプロがいかに商売っ気がないかという話とか、まあ、本当にどうでもいいことばかりが書いてある。根底にはさすがに三浦しをんらしさがちりばめてあるのだが、基本、トホホな話が中心。この日常から、どのようにしてあのような素晴らしい物語の数々が生み出されていくのか。それこそが秘密であり、誰にも計り知れない謎なのかもしれない。
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