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「海うそ」梨木香歩 岩波書店
これは好きだ。人文地理学者の主人公が、九州の遅島というおそらく架空の島を調査して歩くエピソードが中心となっている、取り立てて事件も起こらない平坦な物語なのだが、とても引き込まれる。その場所、出会う人、主人公の心情がみごとに描き出されていて、まるで一緒に遅島を歩いているような感覚にとらわれる。
史跡を歩きながら、かつてそこにいて生きていた人に思いを馳せ、何か通じ合うような、分かり合うような気持ちになる。廃仏毀釈の嵐の中で寺院が失われてしまったことが、今と生きるわたしたちの抱える問題にも深くつながって来ることも感じられる。
時を経て、失われるものもあるが、そこを生きてきた人の心の中にはいつまでも生き続けるものもある。寂しいような、それでいて充足したような、穏やかな結末が、胸にしみた。
2014/12/2
