心を病んだらいけないの?

心を病んだらいけないの?

2021年7月24日

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「心を病んだらいけないの?うつ病社会の処方箋」

斎藤環 與那覇潤 新潮社

「世界が土曜の夜の夢なら」「承認をめぐる病」「母は娘の人生を支配する」の斎藤環と、双極性障害を持つ歴史学者、與那覇潤の対談集。これは結構深い本であった。

精神疾患やそれに対する治療のあり方には他人事ではない興味がある。これまでに何冊もの本を読んできた。一番わかりやすかったのは最相葉月の「セラピスト」で、以下、ハウス加賀谷の「統合失調症がやってきた」や東畑開人の「野の医者は笑う」「居るのは辛いよ」、北山修の「日本人の原罪」「帰れないヨッパライたちへ」、いとうせいこうと星野概念の「ラブという薬」などなど、どれだけ読んだかわからない。

この本は、上記の本を読みながら、わかったようなわからないような、でも、これってどうなの?と浮かんでは消える疑問の一つ一つにかなり肉薄して答えてくれるようなところがあった。「当事者研究」のように、本の作り手自身がまた当事者でもあるということが大きかったのかもしれない。また、上記作者の名前が実際に挙げられたうえで様々に評価がなされており、それがこれまでの読書経験とつながって興味深かった。そう言えば私も感心しながら読み、ベストセラーになった「嫌われる勇気」にも言及してあり、これは、ある程度、精神的にタフな人にしか通じない、と断じられていて納得するところがあった。

友達っていないといけないの?
家族ってそんなに大事なの?
お金で買えないものってあるの?
夢をあきらめたら負け組なの?
話でスベるのはイタいことなの?
人間はAIに追い抜かれるの?
不快にさせたらセクハラなの?
辞めたら人生終わりなの?
結局、他人は他人なの?

各章の題名を見ただけで、今の私たちが抱える切実な悩みが取り上げられているのがわかる。SNSなどで華やかな日々の生活を誇示してみせる人が多くいる裏で、掲示板などでは人間関係の悩みが次々に相談されている。その多くが、上記の9つの項目に入ることだなあ、と改めて思う。結局、みんな承認されたいのよね。お金をもらうことよりも、承認されることのほうが、ずっと大事だったりするのよね。

実際読んでもらったほうがわかるに決まっているけれど、なるほど、と思ったことを一つあげるとすると。ハーモニーじゃなくてポリフォニーが大事、ということ。ポリフォニーとは「他者の他者性」を理解すること。

自分と相手との間には決定的な違いがあり、しかしどんな相手にも個別の尊厳が備わっていること。その他者の主体性は尊重すべきだし、自分の主体性もまた尊重されるべきであること

であって、たとえばハーモニーだと異論を排除する集団主義になりがちで、ノリが悪い、寒い人は集団の中で機能できず、笑いものにされ、尊厳が認められない。その違いはとても大切。

ゆっくりと遠回りでいいから、参加している誰もが尊厳を否定されない、そこにいるだけで前よりも楽になれるような関係性を、対話を通じて作っていこう。

という提言は、とても心に響いた。

各章の最後に、その章のポイントがわかりやすくまとめてあるので、頭を整理しながら読めるのも、役に立った。

          (引用はすべて「心を病んだらいけないの?」より)
2020/12/8